いまさら若冲

 僕の祖母は、数々の名言を残している。
 ある日、バス停でバスを待っていた祖母は、「ねえ、おばあちゃん」と同じくバスを待っていた人に声をかけられたらしいのだが、「わたしはあなたのおばあちゃんではありません」と返答したという。
 またあるとき、僕が伊藤若冲の話をすると、「いまさら若冲〜?」と答えたという。
 祖母という人は美に対する慧眼があり、インターネットはもちろん情報誌もまだそれほどない時代に、若冲やら何やらを見に足を運んだり、山葡萄の鞄を収集したりしていたのだから、まあすごいと思う。確か、自分で絵も描いたんじゃないかしらん。僕は、絵画のことなどもっと祖母に聞いておけばよかったと思うこともあるのだが、「いまさら若冲〜?」と答えるような祖母だから、もし僕が何か質問していたとしても、それほどのことは聞き出せなかっただろうなと思ったりもする。

若冲 (文春文庫)

若冲 (文春文庫)